【理解しよう】ロシア-ウクライナ紛争
以下に、「ロシア-ウクライナ紛争」について、中学生でも理解しやすいように配慮しつつ、できるだけ詳しく、かつ多角的に解説する文章をまとめました。歴史的背景や政治的要因などについてはなるべく深く掘り下げ、そのうえで現状と未来の展望、周辺国への影響も網羅しています。ところどころで参考文献や報道機関・専門家の見解を示し、URLを付しています。また、文章中では一部の専門用語にはカッコ書きを入れて補足説明していますので、理解の助けにしてください。
目次
1. はじめに
2. ロシアとウクライナの歴史的背景
3. ソ連崩壊後のロシアとウクライナの関係
4. 2014年のクリミア併合と東部紛争
5. 2022年以降の軍事侵攻と現在の状況
6. メディア・報道機関の視点と情報戦
7. 人々の生活環境・ライフスタイルの変化
8. エネルギー問題
9. 食糧問題
10. 人道支援と難民問題
11. NATO(北大西洋条約機構)拡大をめぐる経緯
12. ロシア国内の世論
13. ウクライナ国内事情(東部・南部の状況など)
14. 周辺国への影響
15. 今後の展望と世界への影響
16. おわりに
17. 参考URL一覧(文中で示したものをまとめ)
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1. はじめに
ロシアとウクライナの紛争は、歴史的にも政治的にも多くの要因が折り重なって起こっています。2022年2月、ロシアがウクライナに対する大規模な軍事侵攻(いんこう)を開始して以降、多くの犠牲者や難民が出続けており、世界各国に大きな衝撃をもたらしました。ニュースで毎日のように報じられるこの紛争は、私たちの暮らしにも様々なかたちで影響しています。たとえば、石油(せきゆ)やガスの価格の高騰(こうとう)、穀物(こくもつ)価格の上昇、それに伴う食料品の値上げなど、遠い国の紛争であっても無関係ではいられません。
本稿では、なぜこの紛争が起きたのか、過去の歴史から振り返り、現在の状況、そして未来の展望について解説していきます。中学生程度の知識で読み進められるように、できるだけわかりやすく説明しつつ、専門用語が出てきたときはカッコ内で意味を補足しています。また、各種報道機関や専門家のコメント、国際機関のデータを示しながら、多角的な視点を持てるように心がけました。
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2. ロシアとウクライナの歴史的背景
2-1. キエフ大公国と東スラヴ民族の起源
ウクライナの首都(しゅと)であるキエフは、かつて「キエフ大公国(キエフ・ルーシ)」と呼ばれる国の中心地でした。9世紀から13世紀ころにかけて東スラヴ系(東欧に住むスラヴ民族の一部)の人々が築(きず)いた国で、現在のロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人の祖先とされる人々が住んでいました。このキエフ・ルーシはヨーロッパにおける重要な国のひとつであり、文化や宗教の中心地でもありました。
しかし、13世紀のモンゴル帝国(元朝)の襲来によりキエフは大きな被害を受け、政治・文化の中心は北東部へ移動していきます。その後、モスクワ大公国(現在のロシアの原型)やリトアニア大公国(現在のリトアニアやベラルーシ・ウクライナの一部を領有)が勢力を伸ばし、ウクライナの大部分はポーランド・リトアニア連合やロシア帝国の支配下に置かれました。
• 参考:国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の「キエフの歴史」
※UNESCOのサイト自体に直接的な「キエフの歴史」をまとめたページはありませんが、世界遺産のひとつとしてキエフの「聖ソフィア大聖堂」などを紹介。
2-2. ロシア帝国時代とウクライナ
18世紀頃から、ロシア帝国は領土を拡大させ、現在のウクライナの大部分を支配下におさめました。ウクライナ人はロシア帝国の中で「小ロシア人」と呼ばれ、ロシア文化との同化(どうか)が進められました。一方、ウクライナ独自の文化や言語(ウクライナ語)も残されましたが、ロシア語を使うことが奨励(しょうれい)されるなど、ウクライナ語や文化は抑圧(よくあつ)されることもありました。
• 参考:NHK「ロシアの歴史とウクライナ」
2-3. ソ連成立とウクライナの位置づけ
1917年のロシア革命(革命政府ができてロシア帝国が崩壊した出来事)後、ボルシェヴィキ政権(ソビエト政権)が誕生し、1922年にソビエト社会主義共和国連邦(通称ソ連)が結成されました。ウクライナはソ連を構成する共和国のひとつで、ソ連内では「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」と呼ばれていました。
ソ連時代、ウクライナは重要な農業地帯・工業地帯として位置づけられました。しかし同時に、スターリン政権下では「ホロドモール(ウクライナ大飢饉〈ききん〉、1932~1933年)」と呼ばれる大規模な人為的(じんいてき)飢饉が発生し、数百万人規模のウクライナ人が亡くなったといわれます。これはウクライナ人にとって大変悲劇(ひげき)な歴史であり、その後のウクライナのロシア(ソ連)に対する感情にも大きな影響を与えました。
• 参考:ハーバード大学「Ukrainian Research Institute – Holodomor Research」
• 参考:国連食糧農業機関(FAO)資料
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3. ソ連崩壊後のロシアとウクライナの関係
3-1. 独立と国際社会への参加
ソ連は1980年代後半から改革(ペレストロイカ)と情報公開(グラスノスチ)を進めましたが、経済状況の悪化などが重なり、1991年に崩壊(ほうかい)します。ウクライナを含む各共和国はソ連から独立し、ウクライナは国際連合(こくさいれんごう、UN)にも加盟しました。独立当初は、ウクライナも含む旧ソ連諸国とロシアとの間で経済的・政治的な協力関係を築こうとする動きもありました。
• 参考:国連公式サイト
3-2. 核兵器放棄と「ブダペスト覚書」
独立したウクライナには、旧ソ連時代の核兵器が大量に残されていました。ウクライナは世界でも有数の核保有国となりうる状況でしたが、1994年に「ブダペスト覚書(おぼえがき)」という国際的な取り決めによって、ウクライナは核兵器を放棄(ほうき)することを決定します。その代わりに、アメリカ、イギリス、そしてロシアがウクライナの領土保全(領土を守ること)と主権(国家としての独立)を保障(ほしょう)する約束をしました。
しかし、その後の紛争においては、ロシアがこの約束を破ったとの見方が強く、ウクライナ側からは「核放棄をしたことで安全を失った」との主張がなされています。
• 参考:BBC「What is the Budapest Memorandum and why is it important?」
3-3. ウクライナのEU・NATO志向(しこう)
ウクライナは、独立後、ヨーロッパ(EU)との関係を深める方向に進みたいという国民や政治家が多くいました。一方、ロシアは、ウクライナが西側諸国(アメリカやEU諸国)との関係を深めることを警戒(けいかい)し、自国の影響力を保とうとしました。特に、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟する可能性については、ロシアは強く反対の立場を取ってきました。このように、ウクライナの「西寄り」か「ロシア寄り」かという方向性をめぐる対立は、国内の政治や国民の意見を二分する大きな要因となりました。
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4. 2014年のクリミア併合と東部紛争
4-1. 親ロシア派政権の崩壊と「ユーロマイダン革命」
ウクライナの政治が大きく動いたのが2013年から2014年にかけての「ユーロマイダン革命」と呼ばれる出来事です。当時、ウクライナの大統領だったヤヌコーヴィチ氏は親ロシア寄りの政策をとり、EUとの連合協定(EUとの経済・政治的な連携協定)署名を保留しました。これに抗議した市民が首都キエフのマイダン広場に集結し、大規模なデモを行ったのです。
デモ隊と治安部隊の衝突(しょうとつ)は激化し、最終的にヤヌコーヴィチ大統領は逃亡(とうぼう)し、政権は崩壊(ほうかい)しました。この一連の動きを「ユーロマイダン革命(または『ウクライナ騒乱』などとも呼ばれる)」といいます。
• 参考:CNN「Ukraine crisis timeline」
4-2. クリミア併合(へいごう)
ヤヌコーヴィチ政権が倒れた直後、ウクライナ南部のクリミア半島(クリミアはロシア系住民が比較的多い地域)でロシア軍が事実上の支配を始めました。そして住民投票を行い、クリミアが「ロシアに編入(へんにゅう)される」結果を発表。これを受けて、ロシアはクリミアを併合したと主張しました。しかし、ウクライナ政府やEU、アメリカなど多くの国際社会は、この併合を違法(いほう)とみなし、認めていません。
• 参考:国連総会決議「クリミアの併合を認めない」(2014)
4-3. ウクライナ東部紛争
クリミア併合と同時期に、ウクライナ東部のドネツク州(州=県のような地域区分)やルハンシク州でも親ロシア派の分離主義勢力が台頭(たいとう)しました。この地域はロシア語を話す住民も多く、ロシアとの経済的つながりも強いと言われます。分離主義勢力とウクライナ政府軍との間で武力衝突(ぶりょくしょうとつ)が始まり、多数の犠牲者を出す紛争が続いてきました。
この東部紛争は、2014年以降断続的に停戦(ていせん)合意が試(こころ)みられましたが、根本的な解決には至らず、ずっと「くすぶる状態」が続いていたのです。
• 参考:OECD(経済協力開発機構)のウクライナ・レポート
• 参考:OSCE(欧州安全保障協力機構)の監視ミッション報告
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5. 2022年以降の軍事侵攻と現在の状況
5-1. 侵攻のきっかけ
2022年2月、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事作戦を開始すると発表しました(ロシア側は「特別軍事作戦」と呼称)。主な理由としては、ウクライナのNATO加盟の可能性を強く警戒したこと、ウクライナ東部の親ロシア派地域を「保護」すると称(しょう)することなどが挙げられます。しかし国際社会の多くの国は、これを国際法に反する「侵略(しんりゃく)」行為だと非難(ひなん)しています。
• 参考:国連安全保障理事会の報道声明(UN News)
5-2. 開戦当初のロシア軍の戦略
開戦当初、ロシア軍は首都キエフを短期間で制圧(せいあつ)し、ウクライナ政府を降伏させる狙いがあったと見られています。しかしウクライナ軍の抵抗(ていこう)は強く、西側諸国からの武器供与(きょうよ)もあり、ロシア軍は思ったように前進できませんでした。加えて、ロシア軍の兵站(へいたん:物資や食料・燃料を前線に運ぶ仕組み)や指揮系統の混乱などが報じられ、長期化の様相(ようそう)を呈するようになりました。
• 参考:BBC「Russia-Ukraine war in maps and charts」
5-3. 長期化と国際社会の対応
紛争が長期化する中、アメリカやEUなどはロシアに対する経済制裁(せいざい)を強化しました。具体的には、ロシアの大手銀行を国際決済ネットワークSWIFT(スイフト)から排除したり、ロシア産の石油や天然ガスの輸入を制限したりする措置が取られました。一方、ロシアはエネルギー資源を自国の武器のように使い、ヨーロッパへの天然ガス供給を絞る(しぼる)などの対抗策を行いました。
ウクライナへの軍事支援も各国で活発(かっぱつ)になりました。アメリカは高性能のロケット砲や防空システム(空からの攻撃を防ぐ仕組み)を提供、ヨーロッパ諸国も戦車や砲弾(ほうだん)などを提供しています。国際社会での意見は、おおむねウクライナ支援が多数を占めていますが、中立やロシア寄りの立場をとる国もあります。
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6. メディア・報道機関の視点と情報戦
現代の戦争では、軍事行動だけでなく「情報戦(じょうほうせん)」が非常に重要です。SNSやインターネットを通じ、ウクライナは自国がいかに被害を受けているかを発信し、同情(どうじょう)と支援を呼びかけます。一方、ロシアは国家主導のメディアを通じて独自のプロパガンダ(政治的な宣伝)を行い、自国の軍事行動を正当化(せいとうか)する情報を流します。
• 参考:Reuters「Fact Check on Ukraine-Russia conflict」
どのメディアを通じて情報を得るかによって、報道の内容や見方が大きく異なるため、情報の真偽(しんぎ)を見極める必要があります。国連や国際機関の公式発表、複数の国際的な報道機関(BBC、CNN、NHKなど)を比較することが大切です。
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7. 人々の生活環境・ライフスタイルの変化
紛争が起こると、人々の生活は大きく変わります。ウクライナ国内では多くの地域が空爆(くうばく)や砲撃(ほうげき)を受け、生活インフラ(電気・水道・ガスなど)が途絶(とぜつ)することもしばしばあります。食料や医薬品が不足(ふそく)し、学校は休校となり、子どもたちはオンライン授業を受けるか、安全な地域へ避難せざるをえない状況にもなっています。
また、爆発音や空襲警報などのストレスから、多くの人が精神的な負担を抱(かか)えているとも言われます。避難する人も多く、国内避難民(国内で安全な地域に移動する人)や海外に逃れる難民も増えています。安全を求めてポーランドやルーマニアなど周辺国へ移動する人が何百万人にも上り、そこでの生活再建も大きな課題です。
• 参考:UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のウクライナ難民情報
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8. エネルギー問題
8-1. ロシアとエネルギー輸出
ロシアは世界有数の産油国(石油が多く取れる国)かつ天然ガスの大輸出国です。ヨーロッパ諸国の多くは、ロシアからの天然ガスに依存(いぞん)してきました。紛争が起きると、ロシアは「対立する国々へのガス供給を制限する」というカードを切ることができ、実際にパイプライン供給が制限されるケースも出ています。このため、ヨーロッパではガス価格が高騰(こうとう)し、電気代などが大幅に上がり、人々の家計を直撃しました。
• 参考:IEA(国際エネルギー機関)「Russia’s role in global energy markets」
8-2. エネルギー転換と再生可能エネルギー
ヨーロッパ各国や日本を含む先進国は、「ロシアへの依存を減らそう」という動きから、再生可能エネルギー(太陽光や風力、水力など)や液化天然ガス(LNG)の多角的な調達先の確保に力を入れ始めています。長期的には、化石燃料(石油やガス)に依存しないエネルギー体制を構築(こうちく)する「グリーントランジション(環境に優しい方向への転換)」も加速するのではないかと言われています。
• 参考:欧州連合(EU)公式サイト「EU’s Energy Policy」
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9. 食糧問題
9-1. ウクライナとロシアの穀物輸出
ウクライナは「ヨーロッパの穀倉(こくそう)地帯」と呼ばれるほど、小麦(こむぎ)やトウモロコシなどの生産が盛んで、世界的にも重要な穀物輸出国です。ロシアもまた小麦の大輸出国であり、両国の生産する穀物は、特にアフリカや中東地域の国々にとって欠かせない食糧源となっています。
紛争が激化し、ウクライナの港が封鎖(ふうさ)されるなどで輸出が滞(とどこお)ると、世界市場で穀物価格が急騰(きゅうとう)しました。貧困(ひんこん)の進む国々ではパンや主食の値段が上がり、飢餓(きが)や栄養不良(えいようふりょう)が深刻化する懸念が高まりました。
• 参考:FAO(国連食糧農業機関)「GIEWS – Global Information and Early Warning System」
9-2. 黒海経由の穀物輸送合意
2022年夏には国連やトルコの仲介(ちゅうかい)で、ウクライナの穀物を黒海(こっかい)の港から輸出するための「回廊(かいろう)」を確保する合意が成立した時期もありましたが、その後、協定が破棄(はき)されるなど、状況は流動的(りゅうどうてき)です。穀物の安定輸出は世界の食糧安全保障(食糧が不足しないようにすること)に直結(ちょっけつ)するため、今後の交渉の行方も注目されています。
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10. 人道支援と難民問題
10-1. 難民の受け入れ状況
国連によると、ウクライナから国外へ避難(ひなん)した難民の数は、開戦から数ヶ月で数百万人規模にのぼりました。ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、モルドバなどの周辺国が多くの難民を受け入れ、EUは加盟国全体で協力し合っています。日本も一部のウクライナ難民を受け入れる支援策を発表しました。
• 参考:UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)「Ukraine Refugee Situation」
10-2. NGO・NPOの活動
国際的なNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)が、ウクライナや周辺国で医療支援や食糧支援、避難所の提供などに尽力(じんりょく)しています。有名な団体としては国境なき医師団(MSF)や赤十字国際委員会(ICRC)などがあります。民間レベルでの募金活動や支援物資(ぶっし)送付も活発です。しかし、紛争地域は常に危険が伴うため、支援する側にもリスクがあります。
• 参考:MSF「ウクライナでの活動」
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11. NATO(北大西洋条約機構)拡大をめぐる経緯
11-1. NATOとは何か
NATO(北大西洋条約機構)は、第二次世界大戦後に設立された軍事同盟で、当初はアメリカ、カナダ、イギリス、フランスなど西側諸国が加盟していました。ソ連との冷戦(れいせん)時代には、NATOとワルシャワ条約機構(ソ連と東欧諸国の軍事同盟)が対立する構図(こうず)でした。
ソ連崩壊後、ワルシャワ条約機構は解体されましたが、NATOは逆に東方拡大(東欧諸国を加盟させる動き)を行い、現在では東欧やバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)など、ロシアに近い国々も加盟してきました。ロシアはこれを「自国への脅威(きょうい)」と捉(とら)え、ウクライナがNATOに加盟することを強く反対しています。
• 参考:NATO公式サイト
11-2. ウクライナのNATO加盟問題
ウクライナは長らく「将来的にNATOに加盟したい」という姿勢(しせい)を示していましたが、ロシアにとっては「自国の隣国がNATO加盟国になるのは脅威」と考えられます。特に黒海に面するクリミアやウクライナ東部にNATOの軍事基地が設置される可能性もあるため、ロシアは妥協(だきょう)を許さない立場を取り続けています。
このNATO加盟問題が、2014年のクリミア併合や2022年の大規模侵攻の背景(はいけい)にも深く影響しているとされています。ウクライナは軍事的にNATOや西側諸国から支援を受けやすくなる一方で、ロシアとの対立は避けられない状況になっています。
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12. ロシア国内の世論
12-1. プーチン政権への支持
ロシア国内では、プーチン大統領の政権下でメディアや言論の自由が制限されているとも指摘されています。国家が管理するテレビや新聞は「ウクライナ侵攻はロシアの正当な行動だ」という報道を一貫(いっかん)して行い、反対意見が出にくい環境にあるという見方もあります。実際に、開戦直後には反戦デモがいくつかの都市で起きましたが、警察による厳しい取り締まりが行われ、逮捕者が多数出ました。
• 参考:Human Rights Watch「Russia events of 2022」
12-2. 経済制裁の影響
ロシア国民にとっても、欧米(おうべい)諸国の経済制裁の影響は大きく、輸入品の価格上昇、外資企業の撤退(てったい)などにより生活水準が下がる懸念がありました。しかしロシア政府は、「西側の制裁に耐えられる」と国民に対して主張を続け、ルーブル(ロシアの通貨)の価値を維持する政策などを実施しています。結果として、ロシア経済は打撃(だげき)を受けつつも「意外に持ちこたえている」と言われる面もあり、今後の長期的な影響が注目されます。
• 参考:IMF(国際通貨基金)「Russia economic outlook」
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13. ウクライナ国内事情(東部・南部の状況など)
13-1. 分離主義地域の「独立」宣言
ウクライナ東部のドネツク、ルハンシク両州の一部地域では、親ロシア派が「人民共和国」を名乗り、ウクライナからの独立を主張しています。ロシアはこれを承認(しょうにん)しており、ウクライナ側は「自国の領土が不法に占拠(せんきょ)されている」と反発しています。南部のヘルソン州やザポリージャ州の一部でも、ロシアによる「住民投票」が行われ、ロシア編入を主張しましたが、ウクライナ政府と国際社会の多くはこれを認めていません。
• 参考:欧州連合(EU)「Statement on illegal ‘referenda’ in Ukraine」
13-2. 都市部の被害
ロシア軍の侵攻で大きな被害を受けた都市の一つにマリウポリ(ウクライナ南東部の港湾都市)があります。長期間にわたる包囲(ほうい)や激しい爆撃(ばくげき)で、市の大部分が破壊されました。停戦後の復興(ふっこう)もままならず、人道危機が深刻化した地域として報道されています。
• 参考:ICRC(赤十字国際委員会)「Mariupol humanitarian crisis reports」
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14. 周辺国への影響
14-1. 地政学的(ちせいがくてき)リスクの高まり
ウクライナの周辺国であるポーランドやバルト三国は、歴史的にロシアからの侵攻を恐れてきた国々です。NATOやEUに加盟しているとはいえ、今回の紛争によって「次は自国が狙われるのでは」という不安が広がり、防衛力を強化する動きが活発化しています。フィンランドとスウェーデンも、長らく軍事的中立(ちゅうりつ)を保ってきましたが、2022年にNATO加盟申請を行うなど、ヨーロッパの安全保障に大きな変化が見られます。
• 参考:NATO「Finland and Sweden’s accession to NATO」
14-2. 経済・エネルギー・難民受け入れ
上記のように、ヨーロッパ諸国はロシアからのガス供給が制限されるなどでエネルギー価格が高騰し、国民生活に大きな影響が出ました。また、大量のウクライナ難民を受け入れたことによる住宅や教育、医療への負担増も課題となっています。それでも、多くの国は人道的支援の観点から難民を受け入れ、欧州連合(EU)として統一的な支援策を取っています。
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15. 今後の展望と世界への影響
15-1. 交渉による停戦の可能性
ロシアとウクライナの間で停戦交渉(ていせんこうしょう)が断続的に行われる可能性はありますが、領土問題(クリミアや東部地域の帰属〈きぞく〉をどうするか)など根本的な対立が続く以上、簡単に合意には至りそうにありません。国際社会の仲介(ちゅうかい)や圧力によって、部分的な停戦や人道回廊の設定などが成立することはありますが、恒久的(こうきゅうてき)な和平(わへい)には多大な時間と努力が必要でしょう。
15-2. 世界経済へのリスク
この紛争は世界経済にとっても大きなリスクとなっています。エネルギー価格や食料価格の高騰は、発展途上国だけでなく先進国のインフレ(物価上昇)を加速させ、人々の生活費が増大し、景気後退(けいきこうたい)をもたらす可能性があります。各国の中央銀行が利上げ(りあげ)に動くなど、金融政策が厳しくなり、投資や消費が減少するといった影響も考えられています。
• 参考:World Bank「Global Economic Prospects」
15-3. 国際秩序(ちつじょ)の変化
ロシアとウクライナの紛争は、第二次世界大戦後に築かれた国際秩序、つまり「力による現状変更は許されない」という原則を大きく揺るがす事例と捉える見方もあります。特に中国が台湾や南シナ海で軍事行動を起こすのでは、といった懸念も高まり、世界各地で安全保障の見直しが進んでいます。
国連安全保障理事会では、ロシアが常任理事国として拒否権を持つため、紛争への強力な制裁決議(けつぎ)を出しにくいという課題が浮き彫りになりました。今後、国連の改革(かいかく)の必要性もさらに議論されるでしょう。
• 参考:UN Security Council – Veto usage
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16. おわりに
ロシアとウクライナの紛争は、歴史的な遺恨(いこん)や地政学的な要素、国際関係の複雑さなどが絡み合っており、簡単に解決策を見いだせるものではありません。軍事的な衝突が長期化すれば、当然ながら多くの犠牲者や生活破壊が続き、世界各国の経済や食糧・エネルギー事情にも深刻な影響を及(およ)ぼします。
しかし一方で、この紛争を通じて「紛争解決には何が必要か」「国際社会はどのように連帯(れんたい)できるか」「情報戦の時代において、真実にどうアプローチするか」など、多くの課題が改めて浮かび上がりました。私たち一人ひとりが複数の情報源をチェックし、正確な情報をもとに考え、行動していくことが求められています。また、歴史的・政治的背景を学び、偏(かたよ)った見方をしないよう、多角的な視点を持つことが大切です。
みなさんにとっては、遠い国の話に感じられるかもしれませんが、世界で起こる出来事は必ず私たちの生活にも影響を与えます。将来、国際社会で活躍するときに、こうした紛争の背景や解決へ向けた取り組み方を理解しておくことは大いに役立つでしょう。ぜひ、日々のニュースや資料に目を向け、自分なりの考えや意見を持ちながら、引き続き関心を持って見守っていってください。
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17. 参考URL一覧(文中で示したものをまとめ)
• UNESCOのサイト(キエフの世界遺産について)
• NHK「ロシアの歴史とウクライナ」特集
• ハーバード大学「Ukrainian Research Institute – Holodomor Research」
• 国連食糧農業機関(FAO)
• 国連公式サイト
• BBC「Budapest Memorandum」
• CNN「Ukraine crisis timeline」
• 国連総会決議「クリミアの併合を認めない」(2014)
• OECD(経済協力開発機構)「ウクライナ・レポート」
• OSCE(欧州安全保障協力機構)の監視ミッション報告
• 国連安全保障理事会の報道声明(UN News, 2022年2月)
• BBC「Russia-Ukraine war in maps and charts」
• Reuters「Fact Check on Ukraine-Russia conflict」
• UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)「Ukraine emergency」
• IEA(国際エネルギー機関)「Russia’s role in global energy markets」
• 欧州連合(EU)公式サイト「EU’s Energy Policy」
• FAO(国連食糧農業機関)「GIEWS – Global Information and Early Warning System」
• MSF(国境なき医師団)「ウクライナでの活動」
• NATO公式サイト
• Human Rights Watch「Russia events of 2022」
• IMF(国際通貨基金)「Russia economic outlook」
• 欧州連合(EU)「Statement on illegal ‘referenda’ in Ukraine」
• ICRC(赤十字国際委員会)「Mariupol humanitarian crisis reports」
• NATO「Finland and Sweden’s accession to NATO」
• World Bank「Global Economic Prospects」
• UN Security Council – Veto usage